災厄の降臨④


 カレンバナもシグレバナも、顔を真っ赤にしつつ目を見開いたままの小紋に、妙に笑いが止まらなかった。

 しかしそれも束の間、急に小紋はうなだれうつむいてしまい、一言もしゃべらなくなってしまったのだ。

「な、鳴子沢さま?」

「あら、これはやり過ぎてしまったみたいね」

「申し訳ございません、鳴子沢さま」

「鳴子沢さまが、こんなに初心うぶな方だとは思いもしらず……」

 今までの彼女たちの煽り言動は、特に何の悪気もないものだった。言わば、ただのコミュニケーションの一つである。

 だが、ただの師弟関係ではないはずの小紋にとって、それはまぎれもなく、とてもきついものだった。

「ははっ……。お二人は、羽間さんと、だったんだね……」

 小紋はうつむいたまま、ぼそりと言葉をつぶやく。

 そんな、あまりにも深刻そうな彼女の態度に、二人は心を締め付けられ、

「違います! 今までの言動は、全部嘘です、すべて虚構なのです!」

「そうです、カレンバナの言う通り、これは身共らの軽い戯言に御座います!」

「いいよ、そんなに気を遣わなくたって。だって、羽間さんは、結構そういう人だもの……」 

「そうではないのです、鳴子沢さま! 確かに背骨折りさまは、身共らと幾度か命のやり取りをしたことはあっても」

「あなた様がお考えになっているような、大人の関係には一切至っておりません!!」

 二人は真顔になって弁解した。

 カレンバナ、シグレバナの両名は、小紋がこのようになってしまうのも無理もないことだと思った。なぜなら、彼女らとて羽間正太郎を慕う気持ちは一緒なのだから。

 何を隠そう、彼女らとて、かの戦乱時中に何度も煮え湯を飲まされた経験を持つ者同士である。

 そんな女性特殊工作員――87部隊の面々は、異彩を放つ孤児で形成され、上層部が思うがままの操り人形として育てられて来た。


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