災厄の降臨③


「鳴子沢さま。どうかされましたか?」

「なにか、お加減でも?」

 厳格なる灰色の戦闘服を身にまといながらも、そこから滲み出すように溢れ出る色香は、それだけで彼女たちの戦闘武器であった。まったくそういった系統の趣味趣向もない小紋ですら、ひたすらどぎまぎするばかりである。

「い、いえ、あの……。そういうんじゃなくって、ね? お二人って、やっぱり、すごいんだなあと思って」

 小紋の言動は、当然的を射ない。

 カレンバナもシグレバナも顔を見合わせるなり、

「ねえ、鳴子沢さま。お聞きしてよろしいでしょうか?」

 カレンバナは、微笑みながら問うてきた。

「え、あ、はい……」

「鳴子沢さまは、あの〝背骨折りさま〟のお弟子さまだったのでしょう? 実際、背骨折りさまは、どのようなお方だったのかしら?」

「ど、どのようなって……」

 聞かれて、小紋が少し動揺を見せるところに、

「あら、カレンバナ。それは間違っているわ。鳴子沢さまは、今現在でもお弟子さまなのですから。あの背骨折りさまに破門を言い渡されない限りは、鳴子沢さまは、永遠にお弟子さまなのよ。ねえ、鳴子沢さま?」

 シグレバナが、茶目っ気まじりな笑顔で言い寄って来る。

「そ、そうですね。僕と羽間さんは、今でも現在進行形のお師匠と弟子の関係です」

 そんな小紋の煮え切れない様子に、

「ふうん、そうなんですね。鳴子沢さまと背骨折りさまは、単なるお師匠さまとお弟子さまなのご関係なのですね」

「それなら、身共どもにもチャンスはありますわね。ねえ、カレンバナ?」

「そうね、シグレバナ」

「え、ええっ!?」

 小紋が驚くのも無理もない。いきなりこの状況で、羽間正太郎の話を持ち出されたのだから。

「ああ、これは失礼いたしました、鳴子沢さま。身共どもは、これでも背骨折りさまと、幾度か戦斗を交えた間柄ですゆえ……」

「せ、戦斗!? 羽間さんと? 戦斗をですか……?」

 ぱっくり口を開いて驚きを見せる小紋に、

「ええ、つい……つい嬉しくて、気分が高揚してしまいましたわ。ねえ、シグレバナ?」

 カレンバナは、妖艶な笑みを浮かべて小紋をからかう。

 そして、シグレバナも負けじと、

「ええ。身共など、何度もあの方に工作を仕掛けたにもかかわらず、全くうまく行かなくて……。ねえ、カレンバナ?」

「そうなのです。シグレバナの言う通り、身共なども同様に、幾度か仕掛けた暗殺も上手くいかなかったばかりか……」

 言って、カレンバナは急に頬を染め上げる。

「え、え、ええっ……!?」

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