災厄の降臨⑤
そんな彼女らが、〝羽間正太郎暗殺〟を上層部より命じられ、そのたびに幾度となく任務失敗を重ねた時、87部隊の間には、こんな見解が広がった。
「あの背骨折りと言う男、かなり只者ではありませんね――」
「只者ではないと言うと、それは?」
「うむ、その真意は、彼が自分というものをしっかりと持って居るということです」
「ああ、それは身共も同感です。そればかりか、かの男はかなり変わっております」
「変わっていると言うと?」
「そう、あの例の話です」
「あの話? あの話とは?」
「ええ、これまでの身共らの、彼の暗殺任務の失敗は、上層部によるところが大きいと。司令部の下調べ不足こそが任務失敗の原因だと彼が……」
「そう、わざわざこちら側の司令部にまで、事細かに経緯と相違点を示した伝文を送って来たという話だそうですよ」
「おお、その話なら身共も聞いております」
「な、なんと!? 彼は、敵である身共らの処遇まで案じているというのですか!?」
「やはり、その噂はまことのものでありましたか!? なんというふざけた話……」
「ええ。なんという、我々を小馬鹿にした行為でありましょうや……」
87部隊の面々は、表面上では悔しさをみせつつも、心の底では彼の破天荒な心遣いに、すでに心惹かれてしまっていた。
それから87部隊の彼女たちの間で、なぜこのような、一見して本人には、なんら得のない行動に出るのかということの議論がされるようになっていた。
そして彼女らは、
「あのお方は、自分の頭で考えていらっしゃって」
「それでいて、他人のために戦っていらっしゃるからなのですわ」
という結論に辿り着いたのだ。
そう言った筋道からの帰結に至ってしまった彼女らにとって、もうヴェルデムンド新政府軍という箱庭の巣窟に居場所はなかった。
そして、紆余曲折を経て軍からの脱走を図り、路頭に迷っていたところを島崎らの一派に拾われ、そして現在に至ったというわけである。
そんな彼女らゆえに、どうにも鳴子沢小紋という弟子の存在が気になって仕方がなかった。
(まさか、あのお方が、こんなに可愛らしい女性がお好みだったとは……)
(あの、人たらしで女ったらしのお方にしては、随分意外な巡り合わせで御座いますこと……)
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