スミルノフの野望51


 小紋は、島崎の言葉を受け取って、

「なるほど。それだけに、ここの電力不足の状況では普通に生活出来なかったわけですね。特に、あの激しい戦乱の中を駆け抜けてきた元87部隊の生き残りとあっては……」

「ほう、さすがは元シンクバイユアセルフの統括リーダーでいらっしゃる。かの87部隊の存在をご存じでしたか」

「ええ、まあ……。ちょっと小耳に挟んだぐらいの知識だけなんですけど」

 小紋は小恥ずかしそうに照れて見せる。

 そんな彼女に、島崎は微笑みかけながら、

「まあ、事情としてはそういうことです。彼女ら元87部隊は戦乱の後期ともなると、部隊員全員が謎の失踪を遂げてしまったことでも知られておるはずです。何と言ってもそのことは、現代有史の教科書にも記載されておりますからな」

「はは、そうでした。そう言えば僕も、87部隊のことを初めて知ったのは、女子校時代の授業でした」

「なるほど。まさに時の経つのは早いものだ。彼女らが途方に暮れていたところを、我々は偶然めぐり合い、それから彼女たちがどういうわけか、私どものコミュニティーに慕って付いてきてくれたのです。とは言え、我々も彼女たちが居なければ、この世に生き残っては来られなかったでしょう。それだけに彼女らとは、持ちつ持たれつの関係なのです」

「そうなんですね」

「しかし、ここに寄留地を設営してからというもの、慢性的な電力不足が続いているもので、本当に二人には不憫な生活をさせてしまって申し訳なく思っておるところだったのです」

 すると、そこにカレンバナが口をはさみ、

「いえ、ここにおられる島崎様には、あの戦乱が収まって以来、度重なるご面倒をおかけする連続です」

 さらにシグレバナが割って入り、

「島崎様に留まらず、ここにおられる方々には、私どものような〝脱走兵〟を全力でかくまって頂いた、お返してもお返しし切れない御恩というものがあります。この状況は、それをお返しするための機会が、やっと巡って参ったのだと、カレンバナ共々、喜びにむせび泣いておる次第なのです」

 二人は熱き想いを静かに語るのであった。

「くれぐれも、二人のことをお頼みします、鳴子沢さん。そして、あなた共々ご無事に生還されることを切に願っております」

 見送られる小紋と元87部隊の両名は、静かに寄留地の門をった。

 これから彼女らに待ち受ける受難は、のちの後世の語り草になることを自身らは知る由もない。


 次章へと続く


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