スミルノフの野望㊿


 そこでデュバラが、小紋の小さな肩にポンと手を置き、

「言葉などではない。そなたの必死さが、彼らの心を動かしたのだ」

 そう言ってにこりと笑みを浮かべた。

「デュバラさん。僕やっと……」

「ああ、小紋殿。不甲斐ないこのデュバラ・デフーに成り代わって、大役を果たして頂きたい。そなたの無事を切に願う」

 この偵察が、どれだけ困難で、どれだけ命懸けであり、どれだけ重要なのかをここに居るすべての者が理解していた。それだけに、彼らはその真意を確かめたかっただけなのだ。

「鳴子沢さん。あなたにこの偵察用のビデオカメラをお預けします。しかし、あなたもご存じの通り、これに使用する電力は我々にとってかなり貴重なものです。大事に扱って下さい」

「はい。了解しました」

 言って小紋は、それを宝物でも扱うように丁寧に受け取る。

「ああ、それと……」

 島崎はそう言いながら、運営班の一人に何らや目配せをした。すると、

「このような非常時のためにと、微力ながら準備しておいたものがあります」

 彼が言った傍から、突如二つの影が現れた。

「彼女らは、その昔〝死の87部隊〟と恐れられた特殊部隊の生き残りです。このような非常時のためだけに、力を温存させておりました」

 言われてその一人が、

「元87部隊所属、暗殺担当のカレンバナと申します」

 そしてもう片方の一人が、

「元87部隊所属、工作担当のシグレバナと申します」

 そう言って、小紋の前にひざまずくなり、その見目麗しい可憐な容姿で宵闇の殺伐とした空間に色を振りまくった。

「見た目には分かりませんが、こちらの彼女たちは、通常のミックスと呼ばれる人々よりも過剰なヒューマンチューニングを施されております。しかし、それゆえに……」

 

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