スミルノフの野望㊹


 ヴェルシュ種の樹木は、あの弱肉強食の世界でも、とても厄介な存在だった。

 それは、ただ凶獣たちをおびき寄せてしまう〝ベムルの実〟が生る母体としてだけの理由からではない。

「あ、あのヴェルシュ種の樹木ってやつは、特殊なダイヤモンドカッターのチェーンソーを使っても、何日がかりで作業しなければならなかったんだ。だからさあ、あの木が作業エリアに生えていると、それだけで寄留地の開発の工期が何か月単位で後れたんだ……」

 見守る一同の中に、そういった経験を持つ人々が多数を占めた。

「俺たちと一緒に移住した開発仲間が、あの木の障壁のお陰で、何度も危ない目に遭ったべよ。それに……」

「んだんだ。それによ、あんなもんが生えちまってると、必ず仲間がいっぺえ死んだんだ……」

「ああ、そうだったよなあ。あん時は、誰しも生きた心地がしなかったってもんだ」

 感慨深い彼ら言葉に、彼らの人知れぬ生き様があるのだ。

 そこに、

「し、しかし、お見事と言うほか言葉がありませんな、デュバラさん」

 代表者である島崎は、彼らの感慨を故意に押し切って割って入った。

「え、ええ……。なんとか出来ましたな。これで、この木の年輪を調べることが出来るはずです」

 デュバラはそう言って、深く息を吐くのだが、

「だ、大丈夫ですかデュバラさん!? 少しお加減でも……!?」

 ふらつき気味のデュバラに、島崎がサッと駆け寄った。

「だ、大丈夫です……。御心配には及びません。いや、なに、この技は一気に体力が削られるもので……」

「そ、そんなに……」

「ええ……。この技は、自らの全神経を、目の前の標的にのみ集中させることで達成されるものなのです。ゆえに、この技は、周囲の環境が整っていなければ可能ではないのです」



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