スミルノフの野望㊸
そう言葉を止めるなり、彼は静かに目を閉じる。
見守る一同は、思わず息を飲んだ。
刹那、茜一色に染まる森の中に、この世の最果てに潜む怪しい生物の吐息にも酷似した深い静寂が訪れる。その時、彼らは鼻腔に生と死との概念が入り混じる大自然の営みを感じた。
「ふう……むん!!」
デュバラは、全意識を前方にのみ注ぐ。ただこれだけのために、ただ目の前の大木を切り倒すために。
彼は静かに懐に手を伸ばし、そして一気にその中のものを投げ放った瞬間――、
「あっ……!!」
一同は凄まじいものを目にした。糸を引くような二つの光が、瞬く間に目前の大木を虚空を引き裂くように駆け抜けていった。
そしてその二つの光は、茜色の陽光に反射して息を飲む間もなくデュバラの両手中に
「ど、どうなった……?」
「や、やったのか?」
「見た目はそのままだが……!?」
見守る一同は、一様に汗を滴らせ、喉を鳴らす。だが、狙いを付けたその大木に何ら変化が見られない。疑念に期待とが入り混じり、ピンと張りつめた妙な空気がその場を支配する。
その時、晩秋特有の枯れ葉混じりの空気の流れに異変が生じた。
「な、なんだ!? いきなり、風向きが……!?」
一同は辺りを見回した、その刹那、
「ああっ……!!」
一同は、再び感嘆の声を漏らした。
なんと、直径二メートルほどにも及ぶヴェルシュ種の樹木が、根元から斜めにずれ落ちて行ったからだ!!
ヴェルシュ種の樹木が、重力に引きずられるかのように地上へとくさびを打った。
「ま、まさか……!?」
「し、信じられん……!!」
「あんなごちごちに硬い大木を……」
「この一瞬にして……!?」
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