スミルノフの野望㊺


 それから運営長の島崎を始めとする調査班は、このヴェルシュ種の樹木の大木を隅から隅まで調べると、

「ううむ……。この個体の年輪の数からすると、樹齢はおおよそ二百年と言ったところですか……」

 日没間近になって、森の中は冷えた空気をまとっていた。学者肌の桜庭は、ペンライトで入念に辺りを探っていた。

「ふうむ。とても信じられん……。ということは、このヴェルシュ種の樹木は、我々が生まれるずっと以前から、この地に根付いていたことになる」

 島崎は、なんとも言い様のない表情で答えた。

「ええ、この現実をそのまま受け止めると、そういうことになってしまいますな……。しかし、これは実に不可解です」

「ああ、君の言う通りだよ、桜庭君。しかし、もう一つ不可思議なことがある」

「もう一つ? そのもう一つの不可思議と言いますと?」

「ああ、それはだな……。この個体から、まだ成熟した種子が確認されておらんということだ」

「ああ……!!」

 意表を突かれ、一同は思わずため息を漏らした。

「な、なるほど。つ、つまり、島崎運営長。この辺りに繁殖しているヴェルシュ種の樹木に、成熟した〝ベムルの実〟が一つもないということが不可解なのですね?」

「ああ、その通りだよ。君たちも知っての通り、ベムルの実はこの時期に種子が成熟を迎える。にもかかわらずだよ。ここには、一つとして成熟した実が存在しておらん」

「もしかすると、この木には繁殖能力が無いのかも……」

「いや、それはあり得ん。なぜなら、ヴェルシュ種の樹木は、いかな環境にあっても、その繁殖力は絶大だ。なぜなら、この辺りにはヴェルシュ種の樹木の別の個体も確認されている。つまり、ここにベムルの実が一つも無いのではなく……」

「なるほど、やはりそう言うことですか、島崎運営長。成熟した種子は、もうすでに何者かの手によって収穫されてしまっているのだと……」

 

 

 


 

 

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