スミルノフの野望㊵
どうやら青井という男は、寄留地の外側から息をもつかぬ勢いで駆けて来たらしい。時節は実りの時期をとっくに過ぎているというのに、額が汗でべっとりである。
「す、少し深呼吸をして落ち着き給え。それで、なんだと言うのだね、その大変だという内容は?」
青井は、運営本部に在籍する面々に見守られながら、島崎運営長に言われた通りに、思い切り深呼吸をしつつ、
「え、ええとですね……、そ、そうそう、そうなんです!!」
「そうなんです? 何がそうなんですなんだね?」
「え、ええ、ですから!! わたしの受け持つ警ら隊のチームが、寄留地の外であれを見つけてしまったんです!!」
「見つけてしまった? 見つけてしまったあれとは何だね?」
「あ、あれとはあれのことです!! ここにおられる皆さんがご存じの、あれのことです!!」
「だから、そのあれとは何のことなんだね、青井君!?」
島崎運営長が、あまりに的を射ない青井の態度に、少し語気を強めたが、
「だから、あれなんですよ、島崎運営長!! あれはここにあっちゃいけないものなんです!!」
そこで青井も負けじと語気を強めた。見ると顔色が次第に真っ青に染まって行く。
その慌てふためく青井の表情に、なぜか一同は既視感を覚えていた。
そして島崎が思い切り背筋に凍り付くような感覚を覚えながら、
「え、青井君!? も、もしや……もしや君が言うあれとは!?」
「そうです、そのもしやのことなんですよう、島崎運営長!! この寄留地の北橋の向こう側に、この世界じゃ全くあり得ない〝ベムルの実〟が成るヴェルシュ種の大木を見つけちゃったんですよう!!」
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