スミルノフの野望㊶


 ヴェルシュ種の樹木。そして〝ベムルの実〟――。

 この名を耳にして、あの弱肉強食ヴェルデの世界に身を置いた経験を持つ者がおじけづかぬわけがない。

 そう、ベムルの実とは、あの凶獣ヴェロンを否応なく引き寄せてしまう特殊な果実の種子であり、その種子が割れることで言わずもがな、かの凶獣たちを無差別に誘引してしまう災厄の実であるからである。

「ま、まさか……!? この地球にベムルの実が……」



 たちまち、その衝撃は寄留地じゅうを駆け巡った。

 そんな有無をも言わせぬ災厄をもたらす植物の樹木が、この地球世界に存在してしまっているともなれば、何はなくとも駆除を考えねばならぬからである。

「どういうことなのでしょう? なぜ、この〝ベムルの実〟が生るヴェルシュ種の樹木がこの一帯のあちらこちらに……?」

 警ら隊の青井主任の案内で訪れた代表の面々は、そこに間違いなく種子がまだ実る前のヴェルシュ種樹木の存在を確認した。

「た、確かにこれは、我々がで禁忌していたヴェルシュ種樹木です。ですが、こんな物がここに生えていること自体、あり得ないことです」

 運営本部の中でも見識の高そうな男が、島崎に助言する。

「桜庭君。それは、どういうことだね?」

 言われて桜庭総務部長は、その白髪交じりの口髭に手をやりながら、

「ええ……。考えてもみてくださいよ、島崎運営長。だって、このヴェルシュ種の樹木は、あの世界でも種子が実るまでに五十年以上の歳月がかかると研究が成されております。しかも、皆さんもご存じの通り、あの世界の植物は、この地球の世界の植物と比べても、少なくとも五倍から五十倍以上の成長を見せるのですよ? それなのに、この目の前に生えているヴェルシュ種の樹木は、地球の木々とほぼ変わらない大きさのままなのです。一体これは、どういう事なのですかね?」


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