スミルノフの野望㉑


 第一の行動は、デュバラが〝成人の赤子〟の集落を見つけ、そこに〝麗人〟として化けた姿でそれらの人々を誘導することにあった。

「彼らをおびき寄せることは、私にとってさほど難しい問題ではない。だがしかし……」

 だがしかし、そこにはいくつかの難関となる問題点があった。

 一つ目は、デュバラの完璧なるで、彼らが本当に食いついてくれるのか、ということである。

 なぜなら、成人の赤子と呼ばれる人々には、最大の特徴があった。それが、に忠実であるということである。

 彼らは、本能的に母親というものを熱心に追い求める傾向があり、さらに女性の乳房に狙いをつける習性がある。

 今回、デュバラはそういった彼らの欲望を満たすために、胸部に分厚いクッションを仕込み、いかにもそれらしい肢体と色気を醸し出している。だが、彼らほど理性が利かぬ純粋に欲望に忠実な人々に、そのような見掛け倒しで事が成し遂げられるものかが不安であった。

 そして二つ目に、彼らをおびき寄せたことによって、彼らに被害を被らせないように出来るかと言うことである。

 今現在のデュバラと小紋は、成人の赤子と呼ばれる彼らを利用こそはするが、決して傷つけたいわけではない。彼らは世間の厄介者として認識されてはいるが、だからとは言え、絶対に元に戻らないという確証があるわけではない。ゆえに、彼らをとして扱おうとする世界の風潮に疑念を抱いているのも事実なのだ。

「成人の赤子と呼ばれる彼らは、あのウィルスから来る病によってこうなってしまったのだ。この不憫な状況こそが、塀の中の人々の恐怖を煽っているのだ。口にこそ出さないが、一つ間違えれば、これが我が身の成れの果てだと分かっているのだからな。だからこそ、塀の中の人々のは彼らを忌み嫌うのだ……」

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