スミルノフの野望②


「誰がそんなことを!!」

 桐野博士は、どんなに恫喝されようと烈風シリーズの人工知能データを引き渡すわけにはいかなかった。

 博士は、スミルノフの目論見をこう読んでいたのだ。

(どうやら奴は、烈風シリーズの人工知能が、烈太郎一人でだけではないことを知っておる。このわしが手掛けて来た烈風シリーズは、一から起こした純粋培養プログラムじゃ。もし、そんなものがこ奴の手に渡ってしまえば、奴の思い通りの純粋な悪魔が生まれ出て来てしまうのも必然じゃ……)

 烈風シリーズのプロトタイプ人工知能である〝烈太郎〟を正太郎に預けたのは、桐野博士が羽間正太郎を、一人の人間として信頼していたからである。

(奴は、現実を現実として受け止められる感覚センスを有した数少ない人間の一人じゃ。そしてあ奴には、それだけの逞しさと、それを乗り越えて来た経験がある。あ奴は、儂の可愛いを託せる、これ以上ない存在だったのじゃ……)

 博士は、これまでにも羽間正太郎よりも遥かに頭脳明晰で、かつ体力にも長け、時の流れを読む力を備えた人物にコンタクトを仕掛けて来た。

 だが、

(なぜかは知らんが、そ奴らには人間としての魅力を感じなかったのじゃ。儂のこの本能がと選択を拒否し続けたのじゃ。それがどういうわけか、あのじゃじゃ馬のような男にだけは、託せるような気がした……)

 当時は、ヴェルデムンドの戦乱の真っただ中であった。

 桐野博士は、戦乱の以前からビジネスの上で羽間正太郎との繋がりがあり、それとなりに深い親交があった。

 だが、だからと言って、当初は彼が烈風シリーズの人工知能の〝育ての親〟となるべく優秀な人物であるという概念を持ち得ていなかったのだ。


 ※※※


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