スミルノフの野望③


 フューザー・アルケミスト社の業績はうなぎ上りであり、この逼迫した世界に新たな可能性を示唆する存在にすらなっていた。

 かの企業が、スミルノフとの共同開発により売り出した〝小型核融合情報発信装置〟とは、その名の通りこれまでにない技術により、わずか数ヘクタールほどの施設をもって核融合発電を可能にした優れものである。

 だが、これには一つ条件がある。それは、これまでの三次元ネットワークの情報制限規約と、それに付随する人と人の繋がりを制限するというものである。

 つまり、この小型核融合装置を誘致し使用するには、これまでの三次元ネットワーク情報網を破棄し、新たに核融合装置同士で新たなネットワークを構築させるというものであった。

 これまでの三次元ネットワークとは、様々な人々の寄せ集めの叡智であり、超巨大な共同インフラストラクチャーであった。

 だが、フューザー・アルケミスト社とスミルノフが提示した規約とは、小型核融合炉を各コミュニティーに格安で敷設する代わりに、その情報ネットワークも独自の回線を使用させるというものである。

 無論、この動きにそれぞれの国家組織や、これまでに共同参画していた企業体などが猛反発したのだが、しかしそれも後も祭りであり、エネルギー問題を解決できなかった彼らにとって、フューザー・アルケミスト社の野望の勢いを止める手立てはなかったのである。

「恐れ入ったよ、スミルノフ君。ひと月前のあの惨状から世界は一変した。そして、世界は我々の意のままとなった。ゆえに、我々は完全に雲の上に君臨していたグースガーゴイル社やナイルアマゾネス社などの頂上企業を我々の傘下に収めることが出来たのだ。礼を言うよ」

 スミルノフには、終始笑みを絶やさぬベクター・オルソニックのその表情が、真実の笑みでないことを知っていた。

「ええ、オルソニック最高顧問。これで人々は新しい〝神〟を信じるようになります。いいえ、信じざるを得なくなります。世間知らずを作れば、やがて人々は逞しさを捨て、あらぬ理想の餌食となって行くでしょう」


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