第二十一章【スミルノフの野望】

スミルノフの野望①


 ※※※


 あれからひと月も経ると、すでにこの世界に生きる人々の思考に多大なる変化が現れて来た。

 それは、これからの未来に悲嘆し全ての行動を放棄しようとする者と、この難局をどうにか乗り越えようと試行錯誤する集団との、決定的な行動の乖離かいりである。

 悲嘆する集団の一派には、自ら命を絶つ者や、これを機に街に火をつけ巻き添えを目論む過激な行動を実践する者も後を絶たなかった。

 これに危機感を覚えたのは、この難局を乗り越えようとする一派である。

 彼らは、前述の〝破滅思考〟の一派に脅威を覚え、次第にそれらを嫌悪、敵視するようになり、やがてはそういった〝破滅思考型〟の人々を炙り出し、除外しようとする自警組織を設立するにまで至った。

「なるほど、人間とはごく自然に相対的な関係性を保とうとする集団的な生き物だ。必ずそこに何かが生まれれば、それに相反する何かが生まれ出て来るように出来ている。たとえそれに、何の意味あろうとなかろうと、ね。実にそうお思いになりませんか? 桐野博士」

「馬鹿な! 貴様はそうやっていつまで傍観者を気取るつもりだ? 実際、これは貴様が直接引き金を引いた結果なのじゃぞ。それを他人事ひとごとのように語りおって!! 貴様に人の心はありゃせんのか!?」

 スミルノフは、この件に関していつもこの態度を崩さなかった。桐野博士は、それが何より気に入らなかった。

「人間の心ですか? フフッ、そうですね……。ええ、そりゃまあ、御座いますとも。私も人間の端くれですから」

 スミルノフは、不敵な笑みを止めない。

「この腐れ外道め!!」

 この世界に、これまでの物資や知的生命活動の循環が滞り、やがては経済的循環さえままらなくなって来たとき、それらの広範囲に開かれていたコミュニティーは閉塞した。そして、百年や二百年以上までの古き閉鎖的な集団へと退化するにまで至ざるを得なかった。

 その時、それらの小さなコミュニティーに内在する情報は、事実とは無縁の懐疑的なものですら現実として受け入れてしまう傾向がある。

「このフューザー・アルケミスト社と共同開発した小型核融合情報発信装置は、今や世界中で類を見ぬほどのメガヒット商品です。現代人は、まるで麻薬かアヘンのように情報とエネルギーに依存しております。さあ、博士。これで我々は世界を牛耳ったも同然です。あとは、博士ご自身が、手塩に育て上げられて来た烈風七型シリーズの人工知能データをこちら側にご提示されるだけです」



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