驚天動地の呪い㊿


「ほう、唯一無二の愛弟子であるそなたにも理解出来んか」

「うん、まるで分かんない。悔しいけど、まるで理解出来ない」

 小紋は珍しく地団駄を踏みながら、眉間にしわを寄せ、愛らしい唇を尖らせた。

 デュバラは、そこで納得したように、

「ふむ。しかし考えてみれば、それは仕方のないことだ」

「ええっ、なぜ?」

「うむ。なぜなら、そなたは本気で奴と対峙した経験がない。つまり、死に物狂いで奴と命のやり取りを経験したことがないからだ」

「あ、ああ、言われてみるとそうかも……」

「しかし、私にはそれがある。あのブラフマデージャの崩壊の日に……。あの時、奴と対峙して、初めて追い込まれた子ネズミの気持ちが理解出来た。無理やり袋小路に追い込まれた恐怖は、あれが最初で最後だった」

 小紋は、デュバラの表情を察して、思わず息を飲んだ。

「あの時、我々は数的に優位な状況に立っていた。にもかかわらず、奴の圧倒的な何かに完全に追い込まれてしまったのだ。そして、精神状態がものの見事に死の淵の断崖絶壁へと追い込まれてしまったのだ」

 確かにデュバラの言う通り、どんなに羽間正太郎と時を重ねたとしても、そういった追い詰めれれ方をした覚えがない。当たり前ではあるが、正太郎が小紋に対し、本能的に死地へと追いやろうとするわけがない。

「ああ、何だか聞いてるだけで鳥肌が立ってきちゃう……。羽間さんて、本当に敵にしたくない人なんだね」

「ああそうだ。だから私は、彼を巷で流布されているような軍師像とは、まるで違うものだと考えているのだ。彼は間違いなくインプット能力の魔物だ。そして、それを的確に分析し、表現アウトプット出来る能力さえ備え持っている。我が元組織の御頭領おかしらであるゲネック・アルサンダール様の多大なる御尽力によって存分にその能力を鍛え上げられてな」

 小紋はごくりと喉を鳴らす。

「あの時私は……いや、あの時私たちは、もう既に生命の詰みを感じていたのだ。本能でそれを感じ取っていたのだ。まさしく彼は、あの状況下で我々の生死を完全に支配していたのだ」


 ※※※


 次章に続く


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