驚天動地の呪い㉖


「そう、そんなことがあったの……」

 小紋と三ノ宮竜子は、近くのビルの一画にあるカフェで向き合っていた。

 以前はサラリーマンでごった返していたこの辺りも今や閑散としており、道行く人々はほとんどラフな格好で通り過ぎて行く。

「どうぞ。ここのコーヒーはとてもおいしいのよ」

 竜子は小紋ににっこりと微笑んで見せた。

 小紋は、一杯三千五百円もするコーヒーにたじろぎながらも、

「は、はい、じゃあ……いただきます」

 そう言って、遠慮気味にカップの淵に口を付けた。

 小紋は、竜子にこのカフェに連れて来られるなり、今まで自分自身に起きたことを洗いざらい語った。

 自分がこの近くの出身であり、ある男性に憧れてあちらのヴェルデムンド世界に渡航したこと。

 そして、その男性と運命の出会いを果たしたのちに弟子として学んだこと。

 父親に強制送還されて以来、〝ロニ教〟を代表するような狂信的集団と命を懸けて戦ったこと。

 その背景を認められて抵抗組織〝シンク・バイ・ユアセルフ〟の代表に抜擢されたこと。

 そして、何者かの画策により、その代表の座を更迭されてしまったこと、などを――。

「ええ、何となくだけど、その一件はこのわたくしも耳にしておりましたわ。あなたが代表の座を追われてしまったことは」

「それよりも、三宮さん。どうして、僕のことを知っていたんですか?」

「ああ、それはね。わたくしが、何度も女優としてシンク・バイ・ユアセルフの医療施設に慰問に訪れていたからよ。そこで何度も、あなたの顔をお見掛けしてしていたって話。まあ、当時のあなたは忙しそうで、こちらから声を掛けられる状態ではなかったのだけど……」

「ええっ、そうだったんですか。僕、昔から三ノ宮さんの大ファンだったのに……」

 気まずそうな表情でうつむく小紋に、

「ねえ、それよりも三ノ宮さんじゃなくって、下の名前で呼んでいただけないかしら。なんだかその方が、堅苦しくなくて良いわ」

「え、あ、ええ……。じゃ、じゃあ……竜子さん。なんで、この僕なんかをお茶に誘ってくれたんですか?」

「なんでって。そうね。それは自分でも分からないわ。ただ、放っておけなかったのよ、あなたを。本能的にね」




 

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