驚天動地の呪い㉗
「本能的に?」
小紋が怪訝そうに問い返すと、
「そうね。なんだかそう感じてしまったのよ。まるで、突然自分の娘にでも再開したみたいで……」
言って、竜子は静かな笑みを浮かべた。
その時、小紋は、
(あれ? 竜子さんて、確か独身を貫き通してるはずだったけど……)
もう一度、竜子を訝しげな眼で見つめた。
その日は、竜子たちグループの案内で寝床を確保することが出来た。
この辺りは元がオフィス街で、その機能はまだそっくりそのまま現存しているが、人の集中度合いは浮遊戦艦出現以前とは比べ物にならない。
人口が減り、電力の供給もままならない昨今では、わざわざ遠くから通勤してまで労力を集中させる意味合いが減ったということもあるが、何よりも世界中の人々の生きるためのモチベーションが下がってしまったことが第一要因のようだ。
その空いているオフィス街のビルの一画を、彼女らが金を出し合い買い取って、身寄りのない人々や生活のままならない人々の面倒を見ているというわけだ。どうやら、国としてもその方が不法占拠されずに済むというメリットがあるのだという。
「へえ、やっぱり竜子さんてすごいんですね。女優さんなのに、そういう交渉が出来ちゃうんだから」
「いいえ、そうじゃないのよ。これは、わたくしのような職業の人材を客寄せパンダにして、そういったことに詳しい方々に全てをお任せしているのよ。わたくし一人の力では、こんな立派な事業は成し得ないわ」
「はあ……なるほど」
その場所は、以前は世界各国からのビジネスマンが一手に集ったとされるホテル跡地だった。
しかしそこに、高級ホテルのような煌びやかな調度品などは飾られたりしていない。が、それでも機能美と清潔感に満ちており、荒廃した街の殺風景な外観とは別世界の雰囲気が醸されている。
「あっ、あんなところに、お花が活けてある。かわいい」
小紋が回廊の所々に置かれている花瓶に手を添えると、
「こんな時代ですからね。何とかやれることだけはやっておかないと思ってね。でもね、はしたない話だけど、こんな花一輪なんかでも、目が飛び出るような凄いお値段がするのよ」
「ええっ!? それって、おいくらで?」
小紋は、恐る恐る竜子の方に振り返ると、
「ま、まあ、ここだけの話だけと……。そのラベンダーの花束を取り寄せただけでも、こんな小さなダイヤモンドのイヤリングと物々交換したぐらいよ……」
「うわあ……」
「それでもね、こんな時代だからダイヤモンドの価値も下がってしまったのよ。まあね、そうは言っても、ここに居る方たちの心が少しで和めれば良いと思ってやっているの。おかげ様で、ここでの交渉事は万事上手くいっている状態なの」
言われて小紋は、彼女がこの施設の代表である意味を知った。ただ、竜子が、かつての人気女優と言った理由だけで選ばれたわけではない。
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