驚天動地の呪い⑮


「確かにそうかもしれぬが、そこまで力を持ってしまえば、小紋殿が小紋殿でなくなってしまう。それではただただ羅刹らせつという言葉でしか形容するしかない」

 デュバラは、一瞬その怪物の顔を思い浮かべた。そして、その男の顔を目の前の女性に重ね合わせる。

「デュバラさん……。もしかして、その羅刹って?」

「うむ。言わずと知れた、羽間正太郎のことだ。そなたの師匠そのものだ」

 デュバラは過去の一件を思い起こしていた。あのブラフマデージャ崩壊直後の出来事を。

「私は、我らの主君であったアヴェル・アルサンダールの命により、そなたの師匠である羽間正太郎の暗殺を謀ったことがある」

「うん。それは前にも聞いたことがあるよ。でも、それは……」

「うむ。致し方なかったとはいえ、あの一件の出来事は今は水に流して欲しい。だが、今はそれを言いたいのではない」

「じゃあ、なに? なにが言いたいの? デュバラさん」

 言われてデュバラは眉間にしわを寄せた。普段から精悍な顔つきが、それにより一層精悍さを増す。

「うむ。私はあの時、そなたの師匠の真の恐ろしさを知った。彼はまさに悪鬼羅刹そのものだった。事実、我らが束になってかかっても、結局のことろ返り討ちに遭ってしまったのだからな」

 小紋は、返す言葉がなかった。羽間正太郎の凄まじさは、彼女自身が一番よく知っている。

 だが、今はこの目の前の男も仲間なのだ。掛けられる言葉にも制限がある。

「そうみたいだね。僕としては、羽間さんが元気で無事にやっていることを聞けただけで万々歳なんだけど……。そういう感じだと、何を言ったらいいか……」

「フフッ……。相変わらず小紋殿は気持ちが優しいな。いいのだ。ここまでは過ぎ去った話だ。しかし……」

「しかし?」

「うむ。しかし、今回の一件は、その羅刹でしか突破出来んのだ。悔しいかな、我が古巣相手には……」

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