驚天動地の呪い⑦


「い、いやあっ!!」

 それは、土蔵の天窓から覗く数体の人々の声であった。

 その目つきは蜘蛛の巣のように血走っており、一種異様な妙にぎらついた眼差しで彼女の胸元を狙い定めている。それはいかにも物欲への貪欲さを見事に物語っていた。

 不幸中の幸いにも、この土蔵はすこぶる頑強に出来ていた。古くからこの土地の豪農が建てたものだけに、その鉄格子の太ささえも、その経済力の豊かさを物語っている。

 しかし――

「い、いやっ……」

 は、その天窓の鉄格子の間に頭を無理やり押し込み、よだれをだらだらと降り注がせる。

 だが、その本能の赴くままの欲望は凄まじく、降り注いだ体液の中には、

「そ、そんな……血、血が混じって!?」

 彼らは手段を選ばなかった。痛みよりも見た目などよりも、その根源的な欲を求めて皮膚を削り、鼻をもいでも土蔵の中に入り込もうとして来るのである。

 小紋は、生きた心地がしなかった。周囲の騒々しさから察しても、恐らくは数え切れぬほどの人々がこの土蔵を取り囲んでいるのだろう。彼らが、どんなにこの土蔵内に入り込む確率が低かろうと、それでもその恐怖による威圧感は凄まじいのだ。

「いやあ……。羽間さぁん、羽間さぁん……」

 小紋は頭を抱え、前かがみになって奥歯をがちがちに震わせていた。少しでも心を落ち着かせるように、その男の名前を呪文のように唱え続けた。

 どんなに戦略術や戦術、そしてサバイバル術を仕込まれた彼女であっても、こうなってしまっては、自分にとっての神に追いすがるしか方法がない。

 その時である――。

「え、なに……!?」

 土蔵の奥に鋭い風のような衝撃波がぶち当たった。そして、

「そ、そんな……」

 分厚い壁に、ぽっかりと丸い穴が開いたのだ。


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