驚天動地の呪い⑥


「なに、これ? どういうこと!?」

 小紋が振り返った時、全てのカプセルから次々と警告音が発せられ、そして全てのカプセルの扉が開き始めた。

 小紋は身構えるより先に、本能的にその場から走り出した。彼女の無意識が、彼女の心より先に危険だと判断したからだ。

 案の定、カプセルの中から這い出して来た人々は赤子の泣き声のまま彼女に襲い掛かって来た。いや、襲い掛かって来たというよりも……。

「ま、まるで、赤ちゃんがママのおっぱいをねだるみたいに……」

 四つん這いになったまま、あたかものようにぴょんぴょんと彼女の小さな胸目掛けて飛び跳ねて来るのである。

「い、いやあっ!! 僕、その……そういうのまだだから、お乳なんて一滴も出ないよう!!」

 小紋は、背筋に凍り付くようなものを感じながら死に物狂いで住宅街を駆け抜けた。こんなものにとっ捕まりでもしたら、それこそ何をされるか分からない。たとえそれが、彼らの純粋な本能だったとしても、彼女にそれを受け入れるだけの覚悟などあるはずもない。

「た、助けてえ、羽間さぁん!!」

 かつてこのような恐怖に襲われたことはなかった。貞操という観念から、彼女がそのような者たちに追い掛け回される経験がなかった。

 小紋は涙目になってゴーストタウンを抜け出した。振り返れば、もはやゴーストタウンは生きた亡霊ゴーストによって占拠されてしまっている。

 息せき切って、彼女は貫禄のある土蔵の中へと潜り込んだ。幸運にも鍵が開いていたので、彼女は扉を閉め、中からかんぬきを掛けた。

 動悸が収まらない。このような状況では、得意の体術を駆使しても、どこまで対抗できるものか。

 土蔵の中は、土埃の匂いとかび臭い異臭が混ざり合い、深呼吸も容易にはばかられる。ただでさえ真っ暗闇なのだ。独り身の彼女に生きた心地がするはずもない。

 そんな時――

「マ……マ……」

 土蔵の天窓から、かすれ声が降り注いだ。


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