偽りの平穏、そして混沌㊽



 ※※※


 小紋が、シンク・バイ・ユアセルフの組織を離れて、初めて分かったことがあった。

「都市部を離れると、ずいぶん人影が見当たらないもんなんだねえ……」

 人工知能〝オツ〟の駆るラウンドビークルから覗く光景は、まるでゴーストタウンそのものであった。

 あれから二時間ほど人気のある場所目掛けて北へ北へと走らせているが、山間の麓に位置する住宅地はまるで人気すらなく、猫の子一匹見かけることがなかった。

 組織に身を置いていた頃は、専用のフェイズウォーカーのモニター越しに物を見ていた。ゆえに、ここまでこの国の衰退具合を肌で感じることはなかったのだ。

「僕の国ですらこうなんだから、きっと他の大陸の国々なんかは、もっとひどいんだろうなあ……」

 これだけ科学が発展していても、広範囲な活動にはそれ相応の物資とエネルギーが必要になる。

 いくら経済活動がそれなりにあるとは言え、どの国もどの組織もその中身はカツカツ状態である。

「この地球にも三次元ネットワーク通信が通っているけれど、それでも自分の肌身で感じない情報なんて、当てにならないよね。ねえ、オツ君?」

 小紋は〝相棒〟となった人工知能に問い掛ける。すると、

「ソウだね、小紋のおねえちゃん……」

 オツは、慌てて返事をした。

「どうしたの? 何かあった?」

 小紋が怪訝な表情で再び問いかけると、

「ア、アノ……。ココがどこだか、ヨク分からなくなっちゃったンダ……」

「ここがどこか? それって、位置情報のことなの? それじゃあ、GPSも三次元ネットワーク通信も使えなくなっちゃったってこと?」

「ソ、ソウミタイ……」




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