偽りの平穏、そして混沌㉚


 最新開発されたフェイズウォーカーには、今までのフェイズワーカーとは決定的な違いがあった。それは、サポート人工知能の実装である。

 このサポート人工知能という物には、乗り手の劣悪な負担を軽減するばかりか、これまでの乗り手の技量の差異までも補う役割があった。

 しかも、この世界には凶獣と名付けられた肉食系植物の脅威がある。その脅威から身を守るために、サポート人工知能は多大なる活躍を果たすことが出来た。

 サポート人工知能には、個々にそれ相応の個性が存在する。その個性は、時に疲弊した乗り手の心を鼓舞することもあれば、優しい言葉で癒してくれることもあり、また時には同じ釜の飯を食う者として仲間意識を高めてくれるという側面もあった。

 のちに、ヴェルデムンドの背骨折りと呼ばれることとなった羽間正太郎は、フェイズワーカーの開発者の日次新之助博士とのかなり厳しい開発テストのテストパイロットの任を受けていたこともあり、

「これからの時代に必要なのは、この最新鋭のフェイズウォーカーに違いねえ。俺ァ、こっちの目利きに専念する」

 そう心に決めた。

 確かに羽間正太郎には、旧式であるフェイズワーカーの乗り手としての一日の長がある。そして、それこそを使いこなせるという自信はあったものの、それは個人的な見解であって、この弱肉強食を絵に描いたような世界で実用性を求めるのには新開発のフェイズウォーカーの方が適していると考えていたからだ。

 しかし、時を同じくしてこの世界に渡った青年商人であるベンジャミン・スミルノフの見解は正反対そのものであった。

「今、あちらの世界――地球では、人間の身体を極限まで高めてくれるというヒューマンチューニング技術というものが広まりつつある。ならば、わざわざフェイズウォーカーのようにごてごてと最新式の技術を飾り立てるようなことをしなくとも、人間自体に進化を求めれば解決することではないか。私はこのままフェイズワーカーに投資を促すことにしよう」


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