偽りの平穏、そして混沌㉙
言われてスミルノフは、思いのたけ拳を握りしめた。
「歪んでいて結構。瞳が真っすぐに澄んでいなくても結構。こちらは私が考えたビジネスさえまかり通ればそれでいいのです。今さら小学生相手の道徳や倫理を説かれても、一銭の得にすらなりませんからな」
桐野博士は、言い終えたスミルノフの唇が震えているのを見逃さなかった。
(なるほど、こやつ。まだあの時のことを根に持っておるようじゃな。〝墓石売り〟と呼ばれたあ奴との関係を……)
ベンジャミン・ラスリン・スミルノフ――。
この男も、羽間正太郎と時を同じくして、あのヴェルデムンドの戦乱が巻き起こる前に、新しい商材を求めて新世界〝ヴェルデムンド〟に渡った青年の一人だった。
当時、我々人類にとって新天地であるヴェルデムンド世界には、様々な問題が表面化していた。
海もなく、人の背丈より何百倍も成長を遂げた巨木が群がるヴェルデムンド。そんな一様に日の光ですら容易に届かぬ大地に、人間が生活を営むためのインフラストラクチャーを整備するには多大な費用と労力が必要であった。
しかし、その労力を補ったのが、当時まだ開発発展途上であったフェイズワーカーである。
しかし、フェイズワーカーには多大なる欠点があった。それは、乗り手の技量がかなりの優劣を決めてしまうことである。
優劣と言っても、決してフェイズワーカー同士が戦い合うわけではない。作業効率の問題である。
ヴェルデムンドの大地は、そのほとんどが平たんではない。そして、巨大な小枝と木の葉が積み重なる障壁が通常の平地と言っても過言ではない。
そんな鬼畜とも言える作業環境の中で、いかにフェイズワーカーを使用したとしても、かなりの重労働なのは間違いない。
そこで開発を急がれたのが、かのフェイズウォーカーである。
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