偽りの平穏、そして混沌㉔
※※※
小紋の焦りは最高潮に達していた。ぐるぐると炎を撒き散らし回り続けるラウンドビークルを背にしても、投げ苦無の攻撃は四方八方から止む気配がなかった。
(ここまで来ると、どうやら敵は一人ではないよね。でもおかしいな。だって、みんな癖が同じなんだもの……)
それは不思議な感覚だった。
かつて、様々な戦闘でこのような感覚を伴ったことがない。どんなに相手が複数機の人工知能相手でも、これだけ一様に同じ癖を持った相手はいなかったからだ。
(こんなの初めてだよ。僕が羽間さんから教わった戦闘術は、相手のそれぞれの個性に対応することが基本だったから……。でも、こんな複数人相手で、同じ性格だなんて。まるで一卵性の何かを相手に戦闘しているみたいだよ……)
当初の小紋は、それで勘違いをしていたのだ。投げ苦無の出どころと角度と力加減が、あまりにも同じ癖ゆえに、一人の相手が目にも止まらぬ素早い動きで移動を行っているのだと考えていた。
だが、それでは余りにも物理的に無理があった。
小紋がそれに気づいたのは、地面に刺さった投げ苦無がいつの間にか消えていたからだ。
ただ攻撃を仕掛けて来るだけならまだしも、数限りある投げ苦無という武器を拾い上げて、再びそれを使用して来ている。これがもし、敵一体の攻撃であるのならば、物理的に無理な話である。
(そういうことなんだよね、僕がまだこの状況をひっくり返せていない理由……。何も状況を把握できていないからなんだよね……)
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