偽りの平穏、そして混沌㉒


 言われてスミルノフは腹の底から吹き上がるような笑い声を上げつつ、

「何とも的確な分析ですな、博士。この私を劇場型思考と申されましたか。いやいや、いかにも、いかにもその通りで」

 彼は、言葉を終えることもなく再び腹を抑える。

「貴様……。わしは、貴様のことなどまったく褒めてなどおらんぞ。一体どういう神経をしておる?」

「い、いえ。こちらとしては、そのお言葉。誉め言葉にしか聞こえておりませんな」

「なんじゃと?」

「ええ、なぜなら、それこそがこの私の目的であり、理念であるからです」

「理念……目的じゃと?」

「ええ博士。先ほども申しました通り、私は一切、神の存在など認めておりません。それゆえ……」

「それゆえ?」

「そんな張りぼての神の存在に打って変るのは、かなり容易なことであると考えておるからです」

「な、なんと!? 貴様ということは……」

「ええ、その通りです。私はこの混乱を利用し、徹底的に社会システムの破壊を考えております。そして、その破壊された人類の壁の向こう側に新しい秩序をもたらそうと考えておる次第です」

「な、なんと……」

「人は一度、猿の時代に戻る必要があります」

「さ、猿の時代に?」

「ええ。しかし、だからと言って、本当に原人然とした人類に戻る必要はありません。ただ、このままの知恵と知識を持ったまま、猿の時代に突入しなければならないのです。人類はもう飽和状態なのですよ、博士。そして、その猿の時代に突入した時に現れるのが、この私、はりぼての神たる存在というわけです」

「き、貴様……。狂っておるのか?」


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