偽りの平穏、そして混沌⑳
しかも、それ以上に厄介なのは、この男が単体であるものを同時に操作出来てしまうこと。
そのあるものとは、彼が関与する組織に作らせたリモート・アンドロイド、通称【リモノイド】の発展型である。そのリモノイドたるものを、彼は別の行動をしつつも複数起動時に自在に操れるということを指し示している。
「き、貴様、何を企んでおる……」
さすがに桐野博士でも、こんな欲塊に満ちた進化の過程を目にしたことがない。
「博士もご存じの通り、初期型のリモノイドを操作するには、大多数の人間の思考が必要でした。しかし、人間という生き物は愚かです。必ず諍い合い、揉め事を起こす習性があります。ならば、同じ人格を有していながら、その思考が別角度からアプローチできるものであれば、それに越したことはない」
「傲慢じゃな。それで、貴様は神にでもなったつもりか?」
「いいえ。人間はどう転んでも神になどなれませんよ。大衆が求めている全知全能の力など、愚かな一般大衆の妄想の根源的な蓄積でしかない。それは逆に言い換えれば、この宇宙の根本原理に対する反逆性でしかない。要するに、全知全能を掲げた時点で、知能レベルの低い民に対する特効薬を示しているに他ならないのです」
「き、貴様!! だから貴様の考えは傲慢じゃと言っている!!」
「そうでしょうか、博士? そんなことを仰りながらも、実は博士もこの私と同じことを常々考えておられたのでは御座いませんか? だからそんなに声を荒らげて、私の考えを否定なさろうとする。つまり、図星というやつですな」
「ぐっ……」
科学者というものは、現実を直視しなければやっていけない。
スミルノフの言う通り、実は桐野博士も同じような意見を持っていた。しかし博士は、それを言葉に出して大衆を責め立てるようなことは出来なかった。なぜなら、それが人間の弱さの根源であり、神を持つことによって生活の拠り所とする行為は悪いことではないと考えていたからだ。
「それで博士は、あの男に烈風七型機動試作機をお預けになったのでしょう? 新しい心の拠り所となる人類の友の創造を模索するために?」
「ぐっ……」
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