偽りの平穏、そして混沌⑱


「何を分かったようなことを……」

 桐野博士は、睨みの利いた眼差しを、より一層濃くさせ、

「なあ、よ。貴様、あの男のことを嘗めてはおらんか?」

「あの男? あの男とは、羽間正太郎のことでしょうか? 今、あの男は目の前にはおりませんが……?」

「だから貴様は、あの男を嘗めておると言っておるのじゃ。貴様も知っての通り、あの娘はな、わしが烈風七型と烈太郎の全てを託した男が育てた唯一の愛弟子なのだ」

「だから、どうだというのです。この最悪な状況を、あんなちんちくりんの自然派ネイチャーの娘がひっくり返せるとでも? 私の提案で、ある組織が独自開発したリモノイドA2〝くノ一ヴァージョン〟に勝てるとでも?」

「ふん。そこが貴様と羽間正太郎との違いじゃ。同じ武器商人としての雲泥の差じゃ。貴様は武器の能力に酔いしれるだけのただの武器マニアじゃ。だが、あの男は違う。あの羽間正太郎という男はな、自らの手で武器を育て上げることが出来る。そして、武器を存分に使いこなすことが出来るのじゃ。それは機械も人間も一緒なのじゃ!!」

「クックック。何を熱く語っておられるのかと思えば、今さら哲学や精神論のもの言いでしょうか、桐野博士ともあろうお方が。そんなものはこの科学発展した現代では通用しませんな。現代は、技術力こそが正義なのです。力こそが正義なのです。だからこその人類の発展なのです。これだから自然派ネイチャー主義の思考経路というものは……」

「その言葉、死んで行ったアストラ・フリードリヒが聞いたら、どう思うかの? アストラ・フリードリヒは、貴様にとって先の戦乱の上客だったはず」

「ええ、その通りです。あのヒューマンチューニング技術を世界にけし掛けた張本人であるアストラ・フリードリヒは、いかにも私の飛び切りの上客でした。しかしそれにも増して、奴は真っすぐ過ぎる愚か者でしかありませんでしたな」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る