偽りの平穏、そして混沌⑨


 厚みにして三センチメートル以上はあろうかという頑強なガラス板をも容易にその切っ先が突き出している。

「これは冗談じゃないよ! こんなのに打たれたら、僕なんかイチコロだよ!」

 こんな時に役立つのは、彼女が元発明法取締局のエージェントであった経験である。

 計器類は最新型であったものの、その系統はその昔の取締官だったころに扱っていたメーカーものと同じであった。しかし、ご丁寧に直接の操作が出来ないようにガードプログラムが仕掛けられている。

「ふふん。なめないでよね、この僕を。こんな仕掛けなんて通用しないよ」

 小紋は何を思ったのか、いきなり運転席の後部に振り返り、そしてその後部に位置する配電盤のカバーを思い切り蹴飛ばした。

 その時である。今まで待機状態であった計器類が全て赤い点滅を起こし、耳をつんざくほどのブザーが鳴り始めた。

「かなり焦ってるようだね、機械の坊や。いや、機械仕掛けのお嬢ちゃんかな? ううん。今はそんなのどっちでもいいや。これ以上だんまりを決め込むようなら、僕はキミをぐちゃぐちゃに破壊しちゃうよ? それでもいい!?」

 言って彼女は、もう一度配電盤のカバー目掛けて鋭い回転蹴りをお見舞いした。

 すると、

「ス、スミマセン。ワタシを壊すのダケハ、勘弁シテクダサイ……」

 唐突に運転席に声が響き渡った。

「やっぱりね。昔からフューザー・アルケミスト社の製品は人工知能に頼りっきりだよ。それも、人工知能自体がみんなポンコツだし……」

 小紋はため息交じりにあきれ顔で言った。

「ソ、ソンナコト仰られマシても……。ワタシは好きでコウナッタワケではありまセン。文句ならワタシを作った開発の人間に言ってクダサイ」

 人工知能は答える。

「そうやって言いわけしかしない人工知能なんて、キミの会社の以外聞いたことないよ。一体、どんな人が作ったらそんなふうな性格になるの?」

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