偽りの平穏、そして混沌⑩


 人工知能は答えなかった。答えなかったというよりも、答えられないと言う方が正しいようである。

「そんなことは置いといて、ほら緊急事態だよ!? このままだと、キミもあの忍者攻撃でお陀仏になっちゃうよ!?」

「オダブツ? オダブツとは、何のコトですカ?」

「うんもう!! お陀仏って言ったら、人間で言ったら死んじゃうってことだよう! キミみたいな機械だったら、オシャカになっちゃうって意味だよう!!」

「オシャカ? オシャカとはなんデスカ?」

「またそれ? キミって、あまりにも経験不足なんじゃない? オシャカって言ったら、キミみたいなのが役立たずのスクラップ状態にされちゃうことを意味してるんだよう!!」

「ええっ、ソウナンデスカ!? ソレは大変ダ!! 早くシナイと!!」

 ビークルの人工知能はそう言うと、いきなり全速力モードでその場から離れようとした。

 しかし、

「ワァッ! タイヤに草がカラミコンデ!!」

「なんでそんなことになるの!? このビークルには八輪もタイヤがあるんだから、そんなものはパワーで押しきっちゃえばいいでしょ!!」

「ソ、ソレが……。イクラヤッテモ、タイヤに草がカラミツイテ……」

 確かにモニター越しにそれを確認すると、八輪同時に長い草が絡みついて、全ての車輪が空回りを起こしている。 

 これは間違いなく相手側の仕業だ。小紋がこのビークルを使って、この場から逃げられないようにするための。かなり原始的な技術であはあるものの、効果は絶大である。

「なら、回って見せて! この場で、勢いよく旋回して!!」

「セ、旋回!? ココで旋回デスカ!?」

「そうだよ! キミの車体は八輪車なんだから、そのくらい朝飯前でしょ!!」

「ソウですけど、ワタシはソレを一度もヤッタコトがありまセン」

「なんで!?」

「ダッテ、ソンナ指示など承ったコトなどナカッタデスカラ……」

「だっても何もないよ、この生きるか死ぬかっていう時に!! キミは馬鹿なの!? 本当に無能なの!?」


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