偽りのシステム235


 二人は、意気消沈してモニターを見つめた。

 十五分もあれば、エナとアイシャの両名は、余裕で次元扉を抜けて火星の領域まで逃げおおせることが出来る。

 しかし、それは心残りでもあった。

 この第十五寄留地は、あの大惨事の悲惨な出来事もあったが、アイシャにとって多くの時を過ごした、言わば彼女自身を育ててくれた場所だ。

 一度、死を迎えたこともある――とは言っても、本来の完全な人間の死とは違ったものではあるが――その生と死を同時に受け入れ、さらには初めて激しい男女の本能的な愛を受け入れた場所でもあった。

 そんな彼女の生い立ちの全てを受け入れて来た場所を、外部の思惑によって破壊されてしまうことがどうしても受け入れられなかった。

「何とかならないでしょうか、エナさん!! わたくしに出来ることなら何でもします!! ですから、貴方のお知恵をどうかこのアイシャ・アルサンダールにお貸しください!! この通りです!!」

 アイシャは、その桜色に煌く巨躯を目一杯折り曲げて懇願した。

 そんな形振なりふり構わない彼女の態度にエナは呆気にとられながらも、

「そう言われてもねえ……。物理的に無理なのよ、アイシャさん。いくらあなたの必殺技の大円月輪を飛ばしたとしても、いきなり二十個もある小型核爆弾の起動装置をいっぺんに破壊することは不可能だわ。それに、さっきも言った通り、あの時限装置は全てアナログで出来ている。あらかじめ遠隔ジャミングが出来ないように設定されているのよ。せめて、設定値に干渉出来るのであれば、時間を引き延ばすことが可能だったのに……」

 エナが、珍しくしおれた表情で答える。

 しかし……、

「エナさん!! 今、何とおっしゃいましたか!?」

 アイシャが、思考内のエナに飛びつくように語り掛ける。

「えっ!? 今? そ、そうね、設定値に干渉で来たのならって……」

「そうではなくて、その後の……」

「ああ、時間を引き延ばすことが出来るってことの話し?」


 

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