偽りのシステム234


 ※※※


「聞いていましたか、エナさん? これは大変なことになりました」

 アイシャは、再び覚醒前の箱入りのころのように、突然おろおろとし出す。まだ、どこか性格が安定していないようだ。

「これは困ったわね。敵にこんな事情があったなんて。しかも、こんなやり取りが筒抜けになってしまってもいいだなんて、きっと何か別の隠し種がある証拠だわ」

 エナは、そう言って急に黙り込んだ。全神経を、第十五寄留跡地の詮索に力を注ぎこんだのだ。

 そしてしばらくして、エナがハッと目を見開いた時、

「何か……何か見つかりましたか、エナさん!?」

 アイシャが遠慮気味に声を掛ける。

「え、ええ……。見つかったわ、隠し種が。あの余裕綽々よゆうしゃくしゃくであの女を遣り込める理由の正体が……」

「そ、そして、それは何です?」

「核よ」

「かく? その、かく、とはまさか……」

「そう、その核よ。核爆弾のことよ。小型だけど、それなりに破壊力のある核爆弾が二十個ほど……。この第十五寄留跡地の地下辺りに広範囲に仕掛けられているわ」

「な、何ですって!? 核爆弾が二十個!?」

「それも、よりにもよって、どのサイバーシステムにも干渉されないように、かなり高性能のアナログ時限装置を使っているわ。監視カメラには映っているけど、これではあたしの力でもどうにもできない……」

 エリケンの本気は、シュンマッハの本気でもある。エリケン大佐が、わざわざこの第十五寄留跡地くんだりまでやって来た理由は、遠隔装置などでは及ばない究極の罠を仕掛けるためだったのである。

「あの女中尉も不憫よね。長年の同士だと思っていた上官に、こうもあっさりと裏切られるだなんて。ねえ、アイシャさん……って、どうしたの、アイシャさん?」

「あ、あの……何とかならないんでしょうか? 核爆弾が二十個だなんて、それではこの寄留跡地が……」

「あ、そうか、ごめんなさい。仮にもここは、アイシャさんの第二の故郷ふるさとだったわね」

「ええ。いくら荒廃した場所だとは言っても、それでもここは、わたくしにとって思い出そのものです。短い間でしたが、お父様やお母様との思い出の場所でもあるわけですし……」

「そうね。人は土に根付くというものね……。まだ形が残っているだけ、その思い出も記憶として思い出しやすいってことか……。でも、それでも、これはどうしようもない。タイマーの残り時間から見ても、あと十五分もすればこの地は跡形も無く消え失せる運命にあるわ。あの女中尉の部隊と共に……」


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