偽りのシステム186


 ※※※


「ね、ねえ、今の見た? アイシャさん……」

「あの……エナさん。あれって、本当に人間が可能な諸行なのでしょうか?」

 二人は、これ以上二の句を継げないといった表情で顔を見合わせた。

 エナは、空中に投影させたホログラミングモニターに向かってため息をつくと、

「安請け合いするんじゃなかったわ……。こんなのが敵だなんて、あたしだって知らなかった」

 それに呼応するかのように、

「わたくしだって、こんな身体なりをしていても、とてもあの敵の方たちを追い払うなんて出来るとは思えません。ねえ、エナさん……」

 アイシャも意気消沈のご様子である。

 エナの能力をもってすれば、大抵の状況把握はお手の物である。しかし、こんな状況把握なら、見ない方がまだ精神衛生上マシだったのかもしれない。

「どんなに、あの第十八特殊任務大隊という人たちが人間という概念を捨て去ってしまった人たちだって言っても、こんな馬鹿げた改造を施されて平気ていられるなんて常軌を逸し過ぎだわ」

「そうですね。あの様子ではもう、どんなに緻密な策略で歴史を改ざんしたとしても、古来からの人間とはかけ離れすぎています。何と言うか、傲慢な悪夢を見ているとでも申しましょうか……」

 さすがのアイシャですら、陰りのある発言をせざるを得ない。

「まさかね……。あたしだって、さっき言った〝狂人〟なんて言葉は、あなたを煽り立てるための誇張でしかなかったのよ。でもね、これは誇張ハッタリや妄想なんかの類いではないわ。これはまさに狂人そのものの異形よ! いえ、人の狂った意識を呼び起こした殺人マシーンそのものよ!!」

 エスタロッサ七個中隊の映像は、彼女らにとって衝撃の極みだった。いくら肉体を半分以上機械に換装させてしまったからと言っても、ここまで造り変えてしまえば、もはや到底人間と呼べるものではない。

「わたくし、こんな人たちと……いえ、こんな方々と戦わなくてはならないんでしょうか? エナさん……」


 ※※※



 


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