偽りのシステム175


 いわば、エミル・ガーシェントは、生まれながらにして潜伏先の男子の妻になり、その命運を操るという役目を担っているということだ。

「そ、そんな……!! 御父上!! 何とかならぬのですか!?」

「ならぬな、これだけは。それゆえガーシェント家の系統は、皆が類まれな容姿と能力を持って生れ出てくる。あの家に生まれ出てきた者は、そういった意味で交配させ続けているのだ」

「な、なんと!? つ、つまり……エミルも生まれ出てくる前から運命が決まっていたと!? そんな」

「その通りだ、アヴェルよ。お前が、このアルサンダール家の第一子として生まれ出てきて運命が約束されていたようにな」

「ば、馬鹿な、そんなことって……」

 言いながら、アヴェルは思い返した。思い返してみれば、ガーシェント家の人々はみな美形ぞろいである。エミルの父や母に限らず、その兄や妹、そしてその祖父や曾祖父までもが凛々しい出で立ちであり、どこか気品と魅力に満ちている。それだけガーシェント家というのは、そういった遺伝子を故意に引き継がせている極めて作為的な系統なのだ。

 そうとも知らず、同世代の男子の目がエミルに向いてしまうのも無理もない話なのである。

「作られた運命というわけですか……?」

「うむ」

 ゲネックはそれ以上口を開かなかった。この組織の現首領として、言葉にすることがはばかられるのだ。

 アヴェルの儚い夢はついえた。青春の苦い味であった――。


 それからのアヴェルは、人が変わったようだったとアイシャは感じていた。

 アイシャにとって、かなり幼いころの出来事であるが、確かに記憶している。そして感じていたのだ。

「エナさん。アヴェルお兄様は、とても感じやすい性質の方なのです。それだけに、きっと……」

「そういうことなのね。あなたのお兄さんは、心が感じやすい人なだけに夢想しやすいっていうことなのね」




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