偽りのシステム174
「アヴェルよ。お前はこの血筋の当主を継ぐものだ。とかく世間の常識とはかけ離れた存在だ。それを自覚せねば、のちに後悔することとなる」
「は、はあ、それは承知しているつもりです……」
アヴェルには当時、気にかけていた同い年ぐらいのエミル・ガーシェントという幼馴染がいた。
エミルは、アルサンダール家にいにしえより代々仕えし家系の直系の娘であり、彼女もまた暗殺組織〝黄金の円月輪〟の術を継承する一人でもあった。
エミル・ガーシェントは、褐色の素肌が宝石のように光り輝く美しい女の子であり、細身でしなやかな体躯が特徴の非常に身体能力の優れた術者であった。
アヴェルとエミルは、常日頃より互いの体技を研鑽し合う仲であった。ゆえに、今日のアヴェルの成長には絶対的に欠かせない存在でもあった。
それゆえ、誰の目から見ても二人の姿は、仲睦まじいものに見えた。当然、このまま行けばアヴェルの第一妻はエミルであると考えられた。しかし――。
「なぜなのです、父上!? なぜ私が、エミルとは添い遂げられぬと言うのですか!?」
「聞け、アヴェルよ。エミルは……いや、ガーシェント家の娘を妻に娶ることは出来ぬのだ。これは宿命なのだ」
「なぜです!? なぜなのです、父上!? なにゆえにガーシェントの血を取り入れることが出来ぬと申すのですか!?」
「ふむ。それは、ガーシェントの血が、呪われているからだ」
「呪われている? それはどいういう。父上が、いや、この黄金の円月輪の首領たる御父上が、そんな、根拠もない言い様で……!!」
「違うのだ、アヴェルよ。これはそういう意味なのではない。ガーシェント家には代々役目があるのだ。その家に娘が授かった場合には、必ず他の国の首脳の細君になり、それを陰から操るという役目が、な……」
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