偽りのシステム176


 アイシャは、亡き父であるゲネック・アルサンダールが病没する直前に世話を任されていた。年齢のかなり離れた親子ではあったが、ゲネックはアイシャを一番可愛がっており、さらには一番気を許し、そのしなやかな気質さえ手放しで認めていたのだ。

 その時にゲネックは言った。

「アヴェルに、あの羽間正太郎のような柔軟な心があれば……」

 これまでにアイシャは、ゲネックの病床を世話する中で、自らの愛弟子である羽間正太郎との様々な逸話を思う存分語っていた。

 しかし、その逸話を一つ一つ語り終えるごとに、その言葉をぼそりと吐いてしまう。

 執着と偏執――。

 父ゲネックから見えているアヴェルの本質。その言葉の端々に見えたのは、そんな概念である。

 言うなれば、父ゲネックも、第一息子であるアヴェルの頑なで執着による歪んだ気質に気づいていたのだ。ゆえに自らの理想に夢想し、羽間正太郎というどこまでも才能を感じさせる素材に執着してしまったのだ。

「なるほど、そういうわけね。アイシャさん。あなたの一家の系統って、結構こだわりがすごいのね。こうやって大事な妹の復活を遂行するところかもそうだけど、あなた自体だってショウタロウ・ハザマに執着し続けているし……」

「そうかもしれません。わたくしだって、考えてみれば、正太郎様と添い遂げたいという一心であんなことまでしてしまったわけだし……」

「えっ!? あんなことって……どういうこと!?」

「あ、あの、ええと……」

 アイシャは、エナの前で思わず口を滑らしてしまったことに慌てて取り繕うが、

「あ、あなたって人は!? もしかして、もうそういう関係だったの!? 赤ちゃんがキャベツから生まれて来るみたいなこと平気で言いそうな顔して、よくそんなことができたわね!! だからあなた、しきりにショウタロウ・ハザマとの赤ちゃんが欲しかったって言ってたのね!!」

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