偽りのシステム160


「降りてください。即刻私の背中から降りてください! そして、二度と私の前に姿を見せないで下さい!!」

 エスタロッサは声を荒らげながら、ゆっくり巨木の枝に取りついた。本気で正太郎をここで降ろすつもりだ。

「なんだよ急に!? セリーヌちゃん、どうしたって言うんだよ!?」

 正太郎は、背中越しに針のむしろような緊張を感じた。今までの緩やかな体温は一切感じられない。

「あなたは身勝手な男です! 私たちとのへだたりは永遠に解消されないでしょう」

「な、なに言ってんだ!? なあ、今は二人で生き延びることだけを考えようぜ? なんの逆鱗に触れたんだかわからねえが、現状でそんなことを言っている場合じゃない!!」

「いえ、生き残らなくても結構です。どうぞ生き残りたいのなら、あなただけでここを切り抜けてください。私は私だけで帰らせていただきます」

「な、なにがどうなってんだ一体? 何を怒ってるんだよう、セリーヌちゃん。俺が何かしたか? 何かしたってんなら謝るよ、この通りだ、ごめん!!」

 正太郎は、手のひらを顔の前で必死で合わせてくる。だが、

「そ、そういうところ、あなたのそういうところなのですよ!! こんなことで簡単に誤って来るんなんて軽薄この上ないわ!! あなたには、どこか余裕があり過ぎるのよ!!」

「そんなこと言われてもだな……。俺ァ、どう返せばいいのやら」

「返さなくても結構です! どうせ、ここで私たちは別れるんだから。大体あなたって人は、他人を見下し過ぎています。自分以外の人を道具としてしか見ていません!!」

「何言ってんの? 俺ァ、そんな気はさらさらねえってば! キミを道具にしてるつもりは一切ねえって!!」

「そうじゃない、そうじゃないかもしれないけれど、あなたは自分のエゴを平気で他人に押し付けているわ! 自然な感じで押し付けてきているの!! それが証拠に、あなたのその能力ちからは、この世界の人たちを不幸に導いている!! あなたさえいなければ、こんな悲惨な戦乱は起こらなかった! いいえ、たとえ起きていたとしても、すぐに新政府側の勝利が確定して平和な日々が訪れていたわ!!」


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