偽りのシステム154


 正太郎の眼差しには、一切の妥協がなかった。彼の心は生身の真剣そのものだった。

「羽間正太郎……あなた」

「ああ、俺には……いや、俺達には後がねえ。今、この瞬間を乗り切らねえと、これ以上生き延びる手はねえんだ。今この時点で、もしかしたら誰かすげえ力を持った奴が手を差し伸べてくれるとか、神様がフッとどこからか降りてきて怪光線であの悪魔どもを焼き払ってくれるとか……。そんなもんは誰が考えたって期待出来ねえってわけだ。そしたらよ、この俺に出来るこたぁ、やれること精一杯をやって見せるだけが最大の手なんだ」

 正太郎が言葉を終えた途端、

「フフッ、本当におかしな人ですね、あなたって」

 エスタロッサは表情を一遍、ケラケラと笑い始める。

「なんだよ、セリーヌちゃん。一体何がおかしいんでえ」

「フフ、フフフフフ……。だって、本当におかしいんですもの」

「だから、一体何が?」

「フフフ、フフフフフ……。でも、本当におかしくて……。ごめんなさい。だって、だってあなた、自分自身で、自分自身が一番強いんだって天然で言い切っていることに気が付いてないんですもの」

「な、なんだよそれ! なんでこの俺が、そんな安っぽい!!」

「いいえ、私はそんな意味で言っているのではありません。でもね、そう言うってことは、結局あなたって詰まるところ自分が最強の戦士だって言い切っちゃっているようなものです。そういうことを、自覚がないまま自覚しているようなものです。なんだか、またそういうところが可愛く感じちゃって、今まで全てがなるほどなあって思っちゃって、フフッ、フフフフフ……」

 意外なことを言われたせいで、正太郎も耳の裏まで真っ赤になってしまった。大の男に向かって可愛いだなんて……と言い返してやりたいことろだが、状況からして的を射すぎていて返す言葉もない。

「でも、私嬉しかった。私も、これでここで死んでも、何も思い残すことがないかもしれません。本当にありがとう……」



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