偽りのシステム151


  

  エスタロッサは、気合の籠った合図を受けるなり地上目掛けて急旋回した。まさに、電光石火の急旋回である。

 思惑通り、突撃をかましてくるヴェロンがいきり立った矢のように襲って来る。しかもそれは一体や二体と言った半端な数ではない。およそ二十体ほどの脂の乗り切った巨体が二人を目掛けて暗闇の中を突進して来るのである。

(神様……!!)

 エスタロッサは思わず心の中で叫んだ。いきなり地獄の一丁目を見た。

 だが次の瞬間、

「うらあっ!!」

 背中の正太郎が彼女から身の乗りだし、デュアルスティックの一撃をヴェロンの脳天に食らわしたのである。

 ギュエェェェェィッ――!!

 大きな咆哮が辺り一帯に鳴り響く。と、その次の瞬間から同じような悲鳴が巨木の間にを幾重にも木霊してゆく。

 この瞬間、エスタロッサはまるで夢の中にでもいる気分だった。とても信じられぬ光景であった。

 それもそのはず。なにせ単なる生身の人間が、この世界の最凶とまで呼ばれた巨大な生き物を、二本のデュアルスティックのみで次から次へとバッタバッタと叩き落してゆくのである。これは、ミックス以上のミックスたる彼女にとって、あまりにも非常識すぎる光景だった。

(あ、頭が割れそう……。この現実に補助脳の演算が追い付いて行けない……)

 彼女は、恐怖を完全に通り越してオーバーロードを引き起こしていた。

 現代最強とまで呼ばれた誉れ高き第十八特殊任務大隊。その戦士の一人である彼女であるからこそ、この現実は受け入れられないのだ。

(わ、私たちは、こんな人を相手に戦っていた……!? 身体の半分を機械に換えて、私たちは驕り高ぶっていたとでも言うの!?)

 我こそが史上最強であると信じてやまなかった。それこそが大海を知らないかわずそのものであると再び思い知った瞬間だった。

(ち、違う!! 私たちはこの人だけに負けたんじゃない。この人たちに負けたんだ……!!)



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