偽りのシステム152
そう、エスタロッサは今になって気がづいた。羽間正太郎は確かに強い。こうして見てもかなりの脅威である。
しかし、その脅威の男だけが、真の強さを有しているのではないことを思い知った。その彼の強さを、彼らの仲間たちが受け継ぎ、それが物理的にも精神的にも
(今の私がそうであるように、きっとこの一か月の間、ゲッスンの谷防衛隊は羽間正太郎の必死の強さが広く浸透していった……まさに、そう考えるのが妥当だということです)
彼女は納得したのだ。背中で暴れまくる正太郎の凄まじい気迫に押され、彼女自身も自らがより一層強くいられる。実力を遺憾なく発揮出来ている。
「さあ、セリーヌちゃん! あらかたのエース級は打ち倒した。今度は、あのどでかい連中のいる本隊た!!」
「は、はい!!」
言いながらも、彼女はまだ信じられない。
(なぜ、生身の人間であるこの人が、この暗闇の中で正確に相手の額を狙って倒すことが出来るの!? 一体それはなぜなの!?)
彼女自身もエースパイロットの端くれである。暗視モニターが搭載された彼女の補助脳をしても、これだけのことをやれと言われてやれるものではない。
にもかかわらず、この男はそれを事も無げにやり切ってしまった。矢のように向かって来るあのヴェロンを。神速と評されるあのヴェロンの攻撃を、この暗闇の中で。この一瞬のうちに――。
「す、少し時間をいただけませんか、羽間正太郎。わ、私……」
「お、おい、大丈夫か、セリーヌちゃん? 胸でも痛むのか? 痛いんなら俺が優しくさすってやろうか?」
「えっ、む、胸ですか? どうして胸なんですか? な、なにも胸なんて痛みませんよ? こんな時にあなた、なんて目で私を見て来るんですか!?」
彼女は、再び疑心暗鬼の表情で正太郎をまじまじと見つめた。それは前とは違った意味で。
「あ、ああ……いやさ。そんなに苦しいんなら、今度は俺が優しく介抱してやろうかと思って……」
「何を言ってるんですか、あなたは!? どうしてそんな風なことを、このタイミングで言えるんですか!? もう、どういうんですか、あなたって人は!? 信じられない!!」
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