偽りのシステム144


 エスタロッサは、正太郎を背中に乗せたまま飛翔を続けた。できれば、このままこの男をどこかに連れてどこかへ飛んで行きたかった。

 しかし、彼女はそれが叶わぬ夢である現実を重々承知していた。

(私たちのこの身体のままでは、この人をは出来ません……)

 彼女は、すでに人間ではなかった。すでに人としての役目を負えていた。人間としての自覚はあるものの、アルティメットサイバーシステムに手を出した時点で別の存在へと旅立っていたのだ。

(もっと早く、この人に出会えていたのなら……)

 と、そう考えてしまうのも、やむを得ないことである。しかし彼女は、人間の女としてのさがすらも捨て切れていないのだ。

 彼女は、涙目になりながら、取り留めもない飛翔を続けていると、

「な、何事です、これは……!?」

 森の奥の方が、次第に騒がしくなって来た。まるで地鳴りのような呻き声が木霊して来る。

「ま、まさか、これは……」

 彼女に一抹の不安がぎった。そして彼女の危惧が現実となった。

「きょ、凶獣ヴェロン!! 凶獣ヴェロンの群れだわ!! どうして今になって……」

 彼女の脳裏に仕込まれているモニター画面に、無数の凶獣たちが感知される。

「いけません。このままでは……」

 ただでさえ、人ひとりを背負って飛んでいる状態である。いかに彼女がアルティメットサイバーシステムを使用した最強のミックスであろうとも、これだけの数を相手にするのは死を意味する。

 ましてこの群れは、先行して全滅をしてしまった部隊を襲った連中である可能性が高い。日々進化するこの世界の生物たちは、今までのデータよりも格段に戦闘能力が高くなっていても何ら不思議なことではない。

「は、早くここから離脱しないと……!!」


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