偽りのシステム143
「そういう言い方って、本当にずるいです……」
正直、彼女は無茶苦茶だと思った。ヴェルデムンドの背骨折りと呼ばれるこの男。まったく訳が分からない。
それにも増して、彼女はこの男のことをかなり勘違いしていた。
彼女は、羽間正太郎という男を、もっとも無敵のタフガイであり、もっとも粗暴かつ野蛮で、もっとも合理性を求めた戦争狂いの男だと考えていた。
しかし、こうして話してみると、どこか人間味があり、どこか普通染みた一面も持っている。顔を合わせる前までは、戦乱の中を駆け抜ける超人をイメージしていたが……。
「あなたが普通の人とは違うのは、当然結果が示しています。ですが、それでもやはり、あなたは生身の人間です。そして、それをあわよくば楽しんでいる節があります。そんなにボロボロになっても、それでもなんだかあなたは……」
「ああ、そうだよ。今回の作戦は、全てがギリギリのラインなんかとっくに超えていた。なんてったって、キミたちは凄まじいぐらいの戦闘能力なんだからな。そう、最強なんてもんじゃねえ。今現在の時点で頂点の軍隊だ。だから、どうやってこの谷を守り抜くか。それこそ死に物狂い、命懸けだったんだ、俺は……」
死力を尽くした戦い。彼はそれを現実に自らが体現したのだと言いたいのだろう。だから、話の分かる彼女に全てを理解して欲しかったのだろう。
「そうか、そうですね。確かに私たちは最凶の軍隊でした。あなたと戦うまでは。それを、こんなふうに……。本当にあなたは凄い人です」
エスタロッサは、敵である正太郎に心から賛辞を送った。これを善悪で考えれば悪でしかない行為だというのに。
「ありがとう、セリーヌ・エスタロッサ・ヒューデカイン。これで俺の苦労も、報われる……」
正太郎は、ひどく焦燥を隠せぬ表情のまま静かに微笑んだ。
「ええ、羽間正太郎。あなたは、私たちミックスという存在に大切なことを教えてくれましたから。死に物狂いで生き抜く姿を、私たちに……。それは、どこからか湧いて来るのか分からない力ですが、間違いなく私たちはその力に負けたのです」
「ああ、あったけえなあ。これでゆっくり眠れるよ。本当にキミの背中は最高だ……」
「はざま……しょうたろう」
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