偽りのシステム141


 エスタロッサは、言われて言葉を返せなかった。あまりにも的を突かれ過ぎてしまったからだ。

「フフフ……。ヴェルデムンドの背骨折りとまで言われた人が何を言うのかと思えば、また妙に哲学的な答えに辿り着いてしまったものですね。でも、そういうの嫌いじゃない……」

「へへっ、そう言ってくれると思ったぜ、セリーヌちゃんなら」

「なるほど、だから私に狙いを付けていたのですね。暗闇の照準器の向こう側から」

「ああ、その通り。一目見た時から、なんだかキミはとても話の分かる女性のような気がしたんだ」

「あら、それもあなたが解析したデータの見積もり?」

「いいや、直感だよ。男と女の間に起こる相性みたいなものさ」

「相性? あら、そんな言葉、何だか久しぶりに聞いた気がします。ええと、つまり……それであなたは、私を女として見て下さっていたと……?」

「ああ、そういうこと。生き物ってのは、どんなに見てくれや表面的な仕草を整えても、どこか無意識に感じるところがあるんだ。それがたまたま、俺にはセリーヌちゃんとの相性がばっちりだって感じられたわけだ」

 エスタロッサは、思わず頬を真っ赤に染めた。こんな気持ちになったのは、いつぐらい振りのことだろう。

「ま、まあ……あなたの言う通りですね。人間誰しも、その経験が無ければ相手の話なんて理解できない。たとえ理解できたとしても、それは机上の空論とでも言うか、理論的な想像でしかないわけだし……。そう、私たちは、ある意味……もう後戻りが出来ないという意味では同じ立ち位置だというわけですね」

「そうなんだよ、セリーヌちゃん。俺たちは、平時で言ったらお互いに悪魔のように醜い角の生えた存在なわけだ。つまり、人殺しの見本みたいなもんだ。そりゃよ、何も俺たちは好きで人殺しをしているわけじゃねえけど、これも成り行きなんだな」

「そうですね。数年後の平和な世の中になった世界の人たちからすれば、そんなの言いわけにしか過ぎませんからね。だからと言って、私たちは自らを弁護したいわけでもない」

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