偽りのシステム140


 羽間正太郎は、飛翔を続ける彼女の背中で笑った。大いに笑った。どうやら本当におかしいらしくて、腹をよじれさせて笑っていた。

「フ……フフフ、本当にあなたって人は可笑しな人ですよね。戦争の……それも、かなり逼迫した戦闘の最中だっていうのに」

 エスタロッサは、もう何が何だか、どうでも良い気分になっていた。今の今まで感じていた恐怖や強迫観念などが一気に放出してしまい、そこに刹那的で享楽的で破滅的な何かが怒涛の如く押し寄せて来た感じだった。

「なあ、セリーヌちゃん。俺ァよ。もう疲れたよ。キミたち第十八特殊任務大隊……つまり、通称〝十八番おはこ〟の大隊と競り合うのは、金輪際願い下げたい気分だってこと」

「あら、よく言いますね。その言葉は、そっくりそちら側にお返しします。どれだけあなたは、私たちの仲間をあの世に送ったのだと思っているのですか?」

「ああ、それについちゃあ何も言い返せねえな。これでも、俺たちも必死だったんだ。らなきゃられる。これはこの世界の不文律さ。これには善も悪もねえ。この世界の自然の摂理だ」

「そうですね。それはその通りです。だけど、これが戦後ともなれば価値観はまるで変わります。今は良いけれど、あと数年もすれば、私たちは間違いなく極悪人ですし、ヴェルデムンド人は野蛮人だとののしられてしまうのも自然の流れだと思います」

「ああ、そういうこと。だがよ、その形容は何も間違っちゃいねえ。俺たちゃ、野蛮人も野蛮人だし、極悪人も極悪人さ。この俺が戦争の英雄みたいに周囲から評価を受けるたびに、つくづく思うことがあるんだ。なあ、セリーヌちゃん、聞いてくれるか?」

「ええ、なんなりと。今の私は、きっと宇宙のどこかで何万年も生きた神様の愚痴だって聞ける……」

「へへっ、そうこなくっちゃ」

「フフフ……」

「でさ、セリーヌちゃん。俺ァよ、この世界に来てやっと分かったんだ。この俺も、今のキミ……いや、キミたちも、間違いなく平和な時には必要のない存在なんだ……」


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