偽りのシステム142
「そうさ、だからさ。だから、俺ァ話の分かるキミに会うために、こうして命懸けでヴェルデムンドアーチの奥深くまでやって来たのさ」
「命懸けで会いに来た……ですって?」
「そうだよ、セリーヌちゃん。俺ァ、こうしてキミに命懸けで会いに来たんだ。ただ話し合いに来たわけじゃない。何となくキミなら心が通じ合えるような気がしたから。だからこうして、こんな物騒なヴェルデムンドアーチの奥深くまで、のこのこ一人でやって来たんだ。仲間には色んな理由をかこつけて……」
正太郎がそう言い終えた時、エスタロッサは妙な違和感を覚えた。
「ま、まさか、あなた……!?」
エスタロッサがそれに気づいた時、正太郎は少しうつむき加減になり、額に脂汗を滴らせていた。
「まあ、そういうこった。俺ァ、ただの人間だからな……。生身の人間てのは、こういうのが不便なんだ。だけどよ、そこがいいんだ……」
エスタロッサはようやく気が付いた。羽間正太郎は、エスタロッサにロープのような頑丈な物を縛り付けていたのではない。ロープのような頑丈な物で縛り付けねば、高速で飛翔する彼女にしがみついていられなかったのだ。
「そ、そんなに疲弊してまで、あなたって人は……」
「あ、ああ……。情けねえ話だがよ。さすがに今回のは体の芯まで疲れ切ったぜ。だってよ、このひと月の間、キミたちのせいでろくに二時間も眠れやしなかったんだ。それによ、俺にはたくさんやることがあった。そうだよ、やることがたくさんあり過ぎて、愛した女の死を悲しんでいる暇すらなかったんだ……」
エスタロッサも噂には聞いていた。以前に起きた、ゲッスンの谷の攻防戦において、羽間正太郎に加担したとされる一人の美人研究者の話を――。
「でも、どうしてそんな話を、私なんかに……」
エスタロッサが少しむくれ加減に問い掛けると、
「そりゃあ、キミが飛び切り優しそうに見えたからさ。あえて理由を言うならそういうこと。わからねえけど、これが相性って奴なんじゃねえの?」
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