偽りのシステム131
エスタロッサは、羽間正太郎――と思しき狙撃手が、
より少ない戦力で、しかも第十八特殊任務大隊という強敵を相手にするには、より精神的により戦力的な分断を図らなければ勝ち目がないと考えたはずである。
(エリケン大佐が仰られた通り、私たちが羽間正太郎という男に一杯食わされたのだということをつくづく思い知らされます。そしてたった今も……。それだけ反乱軍のゲッスンの谷防衛隊には余裕が無かったのでしょう。それを、まるでその正反対に余裕があるように見せかけられて、それに乗ってしまった私たちに敗因があるのでしょう。しかし、こうもあの男の力を前面に押し出されれば……)
一人の男の演出により、エリケン大佐を始めとした第十八特殊任務大隊の兵士らは、それがゲッスンの谷防衛隊の平均的な実力であるという錯覚を植え付けられてしまったのである。
無論、再三にわたる実戦経験を経て、ゲッスンの谷防衛隊の実力は向上して来たのも事実である。
そんな中、他の兵をも差し置いて、たった一人で敵に立ち向かって来る指揮官の姿があった。それがヴェルデムンドの背骨折りこと、羽間正太郎である。
そしていつしか、この羽間正太郎という凄まじく常識はずれな行動をする男に、エスタロッサは興味を抱いてしまっていたのだ。
(私はあの時からすでに、人間としての女の性を捨てたはず……。なのに、上官の命令を無視し、部下をも巻き添えにしてまでこの作戦を続行しようとしている。愚か者だ、私は……)
彼女の水鳥の如き両翼を広げた姿は、すでに人間としての
(私は、このような醜い姿になって、いつからか女であることをあきらめていました……。けれど、かつて二十年近くもの間、ふつうの女であった私は、まだ女であったことを拭いきれないでいます。どうしようもなく強い男を追い求めています……)
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