偽りのシステム130


 エスタロッサは直ちに一番隊の生き残りであるシャザ―准尉に周囲の索敵を指示すると、自らは囮になるべく巡回飛行を開始した。

「シャザ―准尉、相手は恐らくたった一人です! それだけに、相手の発射地点を正確に把握できれば、こちら側に勝機が見えてきます! 私はこうやって飛んで敵の的になりますから、あなたは居所を掴んで下さい!!」

 エスタロッサの飛翔技術は群を抜いて高い。それは隊の誰もが理解し得るところ。

 当初、シャザ―准尉は上官を気遣って逆の指示を求めたが、エスタロッサに合理性を諭されて渋々この指示を了解した。

「中尉殿、くれぐれも敵の攻撃にだけはお気をつけ下さい」

「何を言いますか、シャザ―准尉。これは私の我がままで強行する作戦です。あなたたちを巻き添えにしているのですから、私自身が身体を張るのは当然です!」

 エスタロッサは答えつつも、シャザ―准尉の言い様に言い知れぬ甘さを感じ取っていた。

(このような戦場でどう気を付けろというのですか……。相手はあのヴェルデムンドの背骨折りなのですよ)

 と。

 エスタロッサは旋回飛翔を続けた。巨木が鬱蒼と立ち並ぶヴェルデムンドアーチは、と動植物の死骸の匂いが立ち込めている。そこは、文字通りの漆黒の闇に閉ざされた一番死に近い空間である。

(狙撃に使用されたジュニクロム社製のAHー9は、特殊軟性金属を使用したボーガン銃です。だから火薬すら使用していません。それだけに、熱センサーや火薬反応センサーにすら感知されにくい特徴を持っています。そういった武器を選んで狙撃して来たからには、間違いなくあの男は熱源を探知されにくい装備をしているに違いありません……。ならば、こちら側のやれることは、相手がボーガンを撃って来た場所を特定することぐらいしか出来ないのですね)


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