偽りのシステム102
エリケンは、人一倍責任感の強い男だった。それだけに、
「この身体を犠牲にしてでも、俺はこの世界の人々を守ってやらなければならない」
という思いが強く先行した。
それは、年若かったせいも後押ししてのことだが、後先を考えずに肉体を改造することによって、自分はとことん強い力を手に入れられるのだと信じていたのだ。
誰に認められるわけでもない。誰かの賞賛を浴びるわけでもない。ただ彼は純粋に、これ以上の犠牲と悲しみと絶望を、自分以外の人々に味わわせたくなかった。ゆえに、そのような一心から過度なヒューマンチューニング手術を繰り返し、今日まで至ったのだ。
そして、程なくしてあの〝ヴェルデムンドの戦乱〟が始まった。それは、ヴェルデムンド新政府が推奨するヒューマンチューニング技術の強要と、ネイチャーと呼ばれる生身の身体を守り抜こうとする反乱軍との二極的な考えの対立する思想的な争いだった。
エリケンの立ち位置は、すでに決まっていた。
「俺は、このヒューマンチューニング技術によって救われたのだ。確かに死んだ仲間や恋人は戻ってくることはないが、この世に残された俺の人間としての尊厳だけは取り戻すことが出来た。こんな素晴らしい技術に異を唱えて新政府の考えに歯向かうという者どもの気が知れん。奴らは、ただ頭が固いのだ。ただ、新しいものを受け入れることが出来んのだ。そうだ、新しい技術が、奴らを恐怖させているのだ」
新政府軍に加担するエリケンにも、彼なりの経験に基づく信念があったのだ。だから彼は、あの激しい戦乱で功績を重ね上げ、大佐という身分までのし上がって来られたのだ。
そんなエリケンが、羽間正太郎という男に対峙して闇を抱えた。それはひどく重苦しい嫉妬という闇であった。
「ネイチャーの代表格とされる奴は、なぜにあそこまで強くいられる? あの生身の身体で、なぜあそこまで身体を張れるんだ? もし、俺が奴の立場だったら、同じことが出来ただろうか……? 全く同じように生身の身体でヴェルデムンドアーチのど真ん中に、その身を潜り込ませることが出来ただろうか……?」
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