偽りのシステム101


 こうして第十八特殊任務大隊は、戦力が二分の一近くにまで落ちた兵力を最大限に活かすために、一点突破の総攻撃の作戦に打って出ることとなった。

 しかしこの時、エリケンの心の奥底に闇が生まれた。羽間正太郎に対する劣等感という闇である。

 彼は、かなりの資産家の家柄に生まれ、何不自由なく子供時代を過ごして来た。

 それだけでなく、彼は子供のころから利発的で風貌も良く、誰からも愛される存在として周囲から認識されていた。

 そんなエリケンが、人生の一度目に遭遇した挫折が、ヴェルデムンド世界への移住計画の時である。

 彼は、地球での高度な教育を済ませたのち、家業の支社の立ち上げのために、このヴェルデムンド世界に渡航した。

 だが、その支社の立ち上げの際に遭遇した肉食系植物の大襲来。その大襲来によって、彼の取り巻きや、親が用意した許嫁らもそれらの犠牲となった。

 本人は、運良く命を取り留めることが出来たが、凶獣のくちばしによって右腕は引き裂かれ、ついでに左足は重量物の下敷きとなり、見るも無残に潰されてしまったのだ。

 その時彼は、人生初めての挫折と絶望を味わった。

 だが、そんな彼のどん底の不安定な精神を救ったのは、当時躍進を見せていた〝ヒューマンチューニング技術〟である。

 彼は、失った手足をヒューマンチューニング技術によって補うことで取り戻し、よって失いつつあった人間としてのアイデンティティを平常にまで取り返すことが出来たのだ。

 だが、当時の世の中は、凶獣の襲来による被害が多発していた時期でもあった。そんな状況を鑑みて心が震えぬ彼ではない。

 エリケンは一念発起し、自分の置かれた身分や状況をかなぐり捨てて、当時 ヴェルデムンド新政府の前身となる連合軍へと入隊を果たした。

 それが、彼の肉体を半分以上機械に換装させてしまう切っ掛けともなった。



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