偽りのシステム90
エスタロッサは、あえて答えなかった。答えれば、それを全て認めてしまうことになる。この厳しくも悲しい現実を受け止めねばならなくなる。
「そうか、なら何も言うな、エスタ坊や。もう、俺たちに残された道はただ一つだ。ここで何を語り合っても、それは一時の気休めでしかない」
エスタロッサ中尉にとって、軍という集団は一つのより所になっていた。ここまで彼は、激しい変革の時流に飲み込まれ、されるがままに半機械人間としての道を歩んで来た。
時には、その圧倒的で合理的な肉体に組み込まれた能力によって敵を圧倒し、さらには生身の人間以上の身体能力で遂行不可能だった特殊任務を悠々とこなしてきたのだ。
しかし、その任務の大半は殺戮の蓄積である。殺戮の蓄積とは、いわば圧倒的な能力によっての虐殺の積み重ねである。
そんな彼らにも、当初は人並みの良心というものが存在した。だが、その良心によって苦しまなければならないのは、誰にも等しく同じこと。まして資産家の血筋を引く彼らが受けた教育は、人並み以上にモラルを大切にするもの。
そんな教育とは相反することを、彼らは変革という時の流れによってやらされてきたのだ。
そんな折に重宝された技術。それが、脳内のクリーンアップである。
脳内のクリーンアップとは、度重なる激しい任務と、情報過多による補助脳のオーバーロードを防ぐために開発された当時の新技術プログラムである。
当時は、これによって彼らの負担は激減した。なにせ、消したい記憶を粗方好きなように消去できるのだから。
それは記憶を消去できるだけではない。補助脳から、自らの本来の脳へと、ある特殊な電気信号を送り、思い出したくない記憶を抑制することが出来た。
これにより、彼らは殺戮者としてだけでなく、ただの人並みの人間としてのアイデンティティを保てられた。無理なく半機械人間として生きて来られたのだ。
(しかし、あれからもう、ゆうに五年以上が経っている。だから、その
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