偽りのシステム89


 エリケン大佐の言い様は、かなり皮肉のこもったものだった。

 それでもエスタロッサ中尉は、その言動を全く腹立たしく思わなかった。それは今のやり取りを何度も交わしたからという理由だけではない。この目の前の大佐自身も、エスタロッサ中尉同様、資産家の出自であるからだ。

 彼らは性格こそ違えど、似たような境遇の持ち主である。エリケンは、彼を〝エスタ坊や〟などと呼ぶが、出自から鑑みれば、エリケンの方がかなりのものである。

 こういったことからも見て取れるように、エスタロッサ中尉はエリケンのこのような言動を、ただの〝照れ隠し〟だと受け取っていた。それだけに、この皮肉に満ちた上官を憎めなかったのだ。

「エリケン大佐殿。我々は、あと二時間ほどでブラフマデージャ跡地に到着します」

「そうか、とうとう来たんだな、運命の時が。俺たち半機械人間の末路がどんなものか証明される日が……」

「ま、末路でありますか、大佐殿……? 先ほどは、我々が救われるために、この作戦に当たるのだと……」

「そんなことを言ったのかな、ちょっと前の俺は。ここのところ、どうも脳内のクリーンアップが激しくて記憶が保てん。これも年季の入った補助脳の劣化のせいか……」

 その時エリケンは、寝ころばりながらエスタロッサからそっぽを向いた。表情にこそ出さないが、肩がひどく落ち込んでいる様子だった。

「大佐殿……」

 エスタロッサは、かける言葉すら見つからなかった。彼も同様だからである。

「なあ、エスタ坊や」

「何でありましょうか、大佐殿」

「さっき言った、俺たちの末路という話、本当はお前自身も理解しているんだろう?」

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